2006年12月アーカイブ

#018 「滑走路」

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  いよいよ飛行機の話題か!と思った方も多いと思います。このタイトル。でも違いますので悪しからず。道路の話です。

ここは東京と横浜を結ぶ有料道路「第三京浜」。玉川インターから望む光景です。いいでしょう?・・・のっけから個人的見解の押しつけですね。すみません。

  この道路は、私にとってはちょっと特別な感じがあります。東京を抜け出して横浜に向かうゲートウェイ。つまり、「心躍る異空間への滑走路」なんです。仕事では殆ど使うことはありません。休日や夜、日常を脱ぎ捨てるような感覚が常に伴うんです。ぐるっとカーブを描いて写真の谷間を抜けると、バァーっと眼前に拡がるのが多摩川の河川敷とその向こうの町灯り。いい塩梅に路面がゆるーく下って、自然と車のスピードも乗ってきます。電車では味わえないグルーヴ感、テイクオフ感がいいんです。


  もっとも、必ずしも海に面した「みなと横浜」方面まで出かけるわけではなく、途中のニュータウンで降りることも多いですが。そのあたりもかつて住んでいた馴染みの地域。最近は思いがけず素敵なスポットが増えているのを教えてもらって、また訪れる機会も増えそうです。仕事で疲れていても、この道を走るときは特別な心持ちになれる何かがあるんです。冬の夜にキーンと冷めた空気を切り裂きながら走る第三京浜は、相当気持ちいいですよ。脳がスキッとします。

  第三京浜は渡辺美里さんの『サマータイムブルース』という歌にも詠われています。雲間から覗く夏の陽光のもと、海まで車を走らせる…という歌い出し。夏。車の屋根を開けてこの「滑走路」を走るのもオツなもの。この曲を聴きながら

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  ことし最後の「乗りもノート」です。皆さんの2007年がこの「滑走路」のように拡がりのある1年となりますように。


#017 「続・プレゼント」

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 都心では
 めっきり見かける
 ことが少なくなった
 貨物列車です。







かつては山手線の駅にも貨物駅が併設されているところがありました。
比較的規模の大きかったのは新宿駅。いまの高島屋タイムズスクエアのあたり一帯が、貨物駅だったそうです。そういえば、明治通りを挟んで高島屋の真向かいには、「日本通運」の古い事務所が今もあります。以前はちょっとした駅のそばには日本通運の荷扱事務所も必ずあったものです。新宿でも往時は鉄道貨物の扱いで賑わったことが推察されます(実際どうだったかは確証ありませんが)。

  失念してました。日本テレビのある汐留も貨物駅の跡地渋谷の貨物駅はいまの埼京線ホーム。…などなど国鉄の分割民営化で、広大な鉄道用地は続々と売却・転用されました。

  幼い頃みた貨物列車の記憶。旅客列車と比べると、独特のもの悲しさを感じたものです。黒や茶色の小さな貨車がずらーっと並ぶ。レールの継ぎ目を越えるときの「ガチャンガチャン」という音の大きさ。最後尾に連なる車掌車の赤いテールランプ。どこから積まれどこへ行くのか想像もつかないたくさんの荷物。積み荷の種類ごとに専用の車両もありました。家畜・自動車・鮮魚・石炭などなど…。全体に黒っぽい色彩に包まれているので、雪の時季など水墨画のような印象すら感じられたものです

  その後貨物はコンテナ輸送が主流に。色合いもぐっと明るく派手になりました。写真の列車はタンク車が中心ですが、この時期の貨物列車はきっと年末年始の縁起物とか各地の名産品などが積み込まれていることでしょう。中にはプレゼント用のおもちゃを満載したコンテナもあるハズ…と勝手に夢を膨らませております


#016 「プレゼント」

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 12月25日です。クリスマス、であります。
よい子の皆さんはお願いしたプレゼント、届きましたか?? …それはよかった。

 今回はクリスマスプレゼントになることも多いであろうおもちゃについての考察です。

プラレール」です。
写真のちびっ子は、我が家の長男です。


ウソです。
会社の先輩の令息。意志の強そうな表情ですね。やんちゃな匂いもちょっと感じられます。彼もニッポンの男の子の例に違わず、プラレールのとりこ、です。
しかし手にしているのは実に渋い。左手の車両はEF15という貨物用電気機関車です。30年ほど前には各地で色調の暗い貨車を黙々と引っ張っていたものですが、いまや見ることはできません


もう1枚の写真は薄緑色のEF58
東海道線が電化したときに、専用の客車と色を合わせた特急用の機関車です。…ちょうど50年前の話、です。

先輩の令息はいま、こうしたレトロな機関車と貨物列車に夢中だそうで。先日も交通博物館で「チョコレート電車(=茶色の旧型電車)だ!」と大興奮の巻。すでに新幹線には飽きているっていうから末恐ろしいぐらいですね。

  いま鉄道好きの世界では、旧い国鉄型の車両が人気。すべからくファンやマニアは「消えゆくもの」への想いが高じるのは通例です。しかしそんな気持ちが幼い子どもたちにもあるというのは不思議なものです。おとなが懐かしさをもって眺めるものが、子どもの目にも魅力的に映るというのは何とも興味深い。鉄道に限らず、時代を超えて愛される「名車」「名機」というのはそういう普遍性を持っているんですね。


#015 「Ticket To Paradise?」

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日本テレビのある汐留・新橋方面から銀座の中央通りに入ると、すぐ目に付く看板がこれです。

銀座8丁目の東側。かなり目立つ場所にある標識。その名も「天国前」です。

地上の楽園。見回せばそこに現世の極楽が。


…いいえ、「てんくに前」です。この標識が屹立するのは東京の方はご存じ、老舗の天ぷら屋さんの前であります。私もたまにお昼の天丼を食べるお店です。…しかし、弊社の大先輩もある日「てんごく前だってさ」と勘違いをしていたそうです。案外、思いこんでいる方は少なくないかもしれません。

  と、知ってしまえば「なぁんだ」という標識ですが。この場所には、漆黒のツヤツヤのハイヤー、夜になると多数停車しております。ニッポンの高級車、ここに集合!といった風情です。それにしても「タクシー乗り場」ではなく「ハイヤー乗り場」という点が、いかにも銀座の面目躍如。

  確かに、ニッポンを代表する繁華街だけのことはあります。この標識の近辺には、たくさんのツアーバスが停車しています。その乗客の多くが中国や韓国などから。バスを降りると近辺のショップでのお買い物に繰り出します。バスの車体にはハングルや漢字だけの社名が色鮮やか。さらに、大手観光バス会社から中古で買い受けたと思しき、「第2の人生」を送る、型の古い観光バスも見受けられます。「天国前」の近辺は、天ぷら好き、ハイヤー好き、そしてバス好きにはこたえられない「乗りもの天国」でありました。

  周辺は高級ブティックやデパート、おもちゃ屋さんも軒を連ねます。ハイヤーで乗り付けてお買い物、という方も少なくないのでしょう。クリスマスプレゼントをトランクに満載して「天国前」から帰路につく…。我々には叶わぬ話ですが。せめて心はParadise、でクリスマスを迎えましょう。メリークリスマス


#014 「試乗」

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 報道記者をやっていて、趣味と仕事が一致するのは幸運なことです。例えばずっと政治史を研究してきた人が政治記者として生の動きを取材するとか。あるいは強い関心を持った国に特派員として赴任するとか。社会部の場合、地震や災害に詳しい人が気象庁を担当するなど、ピッタリくる場合があります。その最たる例がかつての「運輸省」担当でしょう。現在は国土交通省となり、建設・国土分野も包含しています。しかし以前は純粋に運輸分野だけであったわけですから、乗り物好きにはたまらない役所です。

 新規開業や新車両のデビューには、「試乗」が開催される場合があります。営業運転前の試乗なので、当然まっさらな設備や車両に乗せてもらえるわけです。記者としてフラットな心持ちで取材するのは当然のこと。しかし一通りの取材が済めば、やはり自分の視点であれこれと(放送には殆ど使えない)質問をするわけです。開業直前に新幹線・品川駅を取材したときもそうでした。交通機関の広報担当者はきわめて優秀な方が多いですが、必ずしも「マニア」ではありません。マニア的視点の質問は本質を突いているとは限りませんし、○×と比べて…とか、△□のときは…なんていきなり言われても、すべてに答えられるハズもないのは当然でしょう。困らせてすみません。

2年前にリニアモーターカーにも試乗しました。わずかな距離ですが、時速500キロの世界を実感して、技術的にはほぼ完成しているという説明に、なるほどなと首肯したものです。むしろ需要とコストとのバランスが最大の問題でしょう。きわめて政治的な話であります。写真を見ると楽しそうに見えますが、納税者として、利用者予備軍として、あれこれ考えることの多い、非常に意義ある試乗でした。…写真を見るとホント、単純に楽しんでいるように見えますけどね。


#013 「汽笛一声」

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日々仕事をしていると忘れることがあります。わが仕事場である日本テレビの位置です。汐留はご存じ、日本の鉄道発祥の地、であります。汐留エリア、いちばん銀座に近い一角には旧新橋駅が復元。ホームも。最先端の技術で所狭しと建造された高層ビル群の足元に、風雅なスタイルの白い2階建てがたたずんでいます。

 見過ごされがちなのは、当時の線路がホームからどう延びていったかということ。実は日本テレビの足元に、「横濱」へ向かう線路の位置が示されています。もちろんレールは無いですけれど。暗くなると地面に埋め込まれたLEDがピカピカと光ります。これ、日本テレビに勤務していても知らない人が意外に多いんです。
 
 さらにその「線路跡」を延長していくと…アンパンマンショップの前。19世紀の夢の乗り物は、子どもたちの夢の店につながっていくのです。そして、さらに延長したと仮定すると、通過するのはちょうど私の席の真下あたり。いやぁ…感慨深い(←どんな?)。
その線路跡に立って、見上げるとゆりかもめ。明治の日本人を驚かせたのは、豪快な汽笛の音、そして天高くのぼる煙。その煙がもくもくと立ちこめていたあたりを、いまは無人の電車が音も立てずに海へ向かいます。汐留は鉄道の新旧が交差する街でもあるのです。


#012 「どこに!」

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 私の知人に、通勤経路上のすべての駅で、トイレがどこにあるかを把握している男がいます。しかも一時は結構な距離があるところに住んでいました。駅の数も決して少なくはありません。彼はどうも、朝の時間帯にお腹がゆるくなっちゃうらしいんですね。ゆえに、どのタイミングで「お腹警報」が発令されても大丈夫なようにと。必要に迫られた知識なんです。
 ご自身の通勤経路を思い出してみてください。自宅に近い駅から会社の最寄り駅まで、どこにトイレがあるか分かっている駅がどのくらいあるでしょう?私の場合は…3駅に過ぎません。しかもそのうち1か所は、できれば使いたくない、緊急中の緊急に限る物件、というべきものです。
考えてみると、かつて駅のトイレの惨状たるや、まぁ酷いものでした。ちょとしたローカル駅でも、改札を出た外のトイレなんぞ、近づくだけで鼻がグイッと曲がってしまいそうなもの。男性用トイレは小便器も無く、ただの「壁と溝」だったり。
隔世の感とはこのことです。いまや多くのトイレが綺麗になりました。それだけに旧態依然のところは目立ちます。冒頭に紹介した彼、きっとトイレのランキングがあるはずです。お腹の具合をみながら、「ううむ、この塩梅ならあの駅まで頑張ろう」とか「だめだ、心ならずも○△駅で降りるしかないか…」なんて。鉄道会社のトイレご担当者様、なお一層の改善をお願い申し上げます。


#011 「ささやかな贅沢」

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  延々と通勤電車の「7人掛けシート」について述べてきました。そこに派生する悲劇的な出来事も。今回のテーマは景気よく、「グリーン車」について。時刻表を眺めて「普通列車にグリーン車があるっ!」と発見したのは子どもの頃。新潟の小さな町に暮らしていた時分です。都市部ではありませんから、「普通列車のグリーン車」の意味が理解できませんでした。
それから幾星霜。日本テレビの社屋からは行き交う「普通列車のグリーン車」が目に入ります。私も『真相報道バンキシャ!』の頃、ゲストのお宅に打ち合わせに出かける際、何度か利用しました。自腹で(←必須)グリーン料金を払って、お茶とお菓子(←必須)を購入の上、見晴らしの良い2階へ上がります。日中は、広々した空間は席の取り合いとも無関係。ゆったりできます。最近は東海道線や横須賀線も普通車のボックスシートが減少中。それだけに、グリーン車に1時間ばかり乗ると十分にモトをとった気分になるわけです。雑誌を買って喫茶店に入ってコーヒーを飲んだら、似たような額になりますから。
 それにつけても羨ましいのは、グリーン車で日々通勤をしている方たち。新橋駅近辺で朝の電車を見ていると、背もたれを倒して熟睡する人、コーヒーを窓際に置いて新聞や本を熟読する人…。遠方からの通勤でも、これなら時間の有効活用ができそうです。隣の普通車の混雑とのコントラストが激しいほど、ささやかな贅沢の価値が高まります。しかし首都圏はそういう選択ができる路線は限られています。私鉄も含め、もうちょっとバラエティに富んだサービスが提供できないものでしょうか。


#010 「通勤電車の座りかた その3 ~悲劇~」

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 さらに続きです。自分の縄張りを侵されたくないという動物的本能に基づき、激しい「端っこ席争奪」で見事に安住の地、栄光の「端っこの席」を得たとしても、危険は潜んでいます。

 その元凶(?)は写真に示したような「仕切りの棒」です。乗降ドアの一角と座席との仕切りは、通常こういうスチールの棒で区切られています。で、端の席を得た人は、見知らぬ他人と並んで座るのは片側だけ。端はこの仕切りですから、そっち側にもたれて束の間の休息を貪るわけです。

 私が悲劇に遭遇したのもそんなときでした。時刻は終電近く。酩酊したお父さん(推定50歳)が、ドア脇でこの「仕切りの棒」に背中を預けてゆらゆらしていたのです。ま、仕切りの向こう側ゆえ、お父さん(推定50歳)が体を動かそうとも私には無関係です。しかし、悲劇はその油断を襲うもの。「体揺さぶり攻撃」の流れに乗って、お父さん(推定50歳)は「ガス攻撃」を決行したのです(たぶん無意識下の攻撃ですが)。こうなると「仕切り棒」は何の効果ももちません。網棚の網でコーヒーをドリップするのと同じように、そのものずばりの「推定50歳を源とする気体」が、「栄光の端っこ席」を包みました。一日の疲れに加えて、そんな攻撃にさらされた私。悲劇です。

以来、端の席には注意を向けています。皆さまもどうかご注意を。…近年は仕切りが「仕切り板」になった車両が増えました。これは安心。体を斜めに預ける際の「頼り甲斐」もありますしね。

#009 「通勤電車の座りかた その2」

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 前回の続きです。鉄道各社も「定員着席」への向け、それなりの努力はしているのは良く知られた(?)ところです。7人が並んで座るタイプのイスに番号を振ったとして、両端→真ん中という「1&7→4」の順に座った後、いかに2、3,5,6の各席にきちんと座らせるか、と言う問題です。
 写真のミニ肘掛けはその一環でしょう。3番と4番の間にあって、全体を3人&4人に分ける、あれです。成人が使う肘掛けとしては小ぶりで低すぎなので、肘掛け本来の役目よりも、定員着席のための手段という色合いがじつに濃い。3人パートのほうはまず間違いなく3人が座っています。あの頼りない板がたった1枚あるだけで、3番と4番はかなり密着して(=つまり適正な位置に)座るのです。じつに不思議ですね。
あとは4人パートのほうがきっちり4人座るかという問題ですよ。この仕切りがあるがゆえに、4番に座った人が中途半端にズレにくい。ズレなければ、まず大丈夫。4人が座って計7人。よかった…(←何に対しての「よかった」なのか自分でも不明)。同様に、3人&4人に分ける位置に、網棚から座面にかけての握り棒がある、という車両もあります。これは混雑時に握る部分が増えるので、一石二鳥ですね。
 ひとえに「見知らぬ隣人とは距離をとりたい」という人間の基本的欲求から始まる着席の習性。縄張りを侵されたくないという動物的本能といって良いでしょう。その本能のまま、きょうも厳しい争奪戦の果てに、端っこの席を得たあなた!世の中思いがけぬところに落とし穴は待っているのです。それは次回に。

#008 「通勤電車の座りかた」

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  大都市の通勤電車は、たいがい1両のドアが4か所。ドアとドアの間の座席は、窓に背を向けて7人が並んで座るタイプです。この座席が全部空いていたら、あなたはどこを目指しますか。
恐らく大多数の人は一番端の席に陣取ることでしょう。下車のときもドアが近いですし。

  始発駅などで見ていても、いきなりど真ん中に座る人はそういないものです。数少ないこのタイプは、心なしか確固たる自信を秘めたような人が多い。私は、ど真ん中を目指す人は会社でもリーダー的存在、と勝手に分析しています。常識的には、仮に7人掛けの座席に1から7の番号を振るとすれば、まず埋まるのが1番と7番。次が4番。ここまでは妥当です。

  しかし。見ていると次の人はきちんと2番や3番に座るかというと、そんなことはない。だいたい2と3の境界線上に座るのです。で、5と6の境界線上も同様。斯くして、7人がけの座席に5人がゆったり座る、という図が描かれるのです。大柄な男性が2人もいれば、着席はこれにて打ち止めです。

  遅れて来た乗客が勇気を示した場合はどうなるか。「すみません」などと口の中で遠慮がちにこぼしながら、詰めてもらう。これで6人。しかしそのときの詰め具合が肝心。ど真ん中4番の人まで気を利かせて体をズラすと、もはや正しい7人掛けへは修正不能になるのですから。1番と7番以外の4人が、全員小数点上に座ることになっちゃいます。野球と同様。「四番は不動」「理想の7人掛けへの道」の定石なのです。


#007 「盲腸」

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 鉄道の世界には「盲腸線」ということばがあります。

 
 あたかも盲腸のように、本線から
 ちょっとはみ出した行き止まりの
 路線のことです。


即物的な言い方ですが。東京の地下鉄にも何か所か、盲腸線と呼べる部分が存在します。先日乗車した千代田線の支線もそのひとつ。その路線は足立区の綾瀬駅から北綾瀬駅へのわずかに一駅分に過ぎません。



  もともと駅を作る計画が先にあったのではなく、本線から少し離れたところに広大な車両基地(=綾瀬検車区)を作る際に周辺住民の要請で設けられた駅、だそうです。
人間の盲腸と違って、ここの盲腸は本当の行き止まり部分に運行上の重要な施設を抱えているのです。
「切除」するなんて滅相もありません。
とはいえ旅客用の設備は最小限。北綾瀬駅のホームは短く、車両はこの区間専用の3両編成のワンマン運転です。
  
  私が初めて乗ったのは、盲腸の先から本線へ戻る電車。到着した列車の運転士は、すぐ反対側の運転席に移動。このわずか2.1㎞の路線を、彼は何回往復するのでしょう。この盲腸線だけ担当していたら、運転士としては物足りないかなあ。絶滅も近い5000系という古い車両がゴトゴト高架線を行きます。
朝夕は混雑するのでしょうが、昼下がりゆえ乗客は20人ほど。3両編成なのでガラガラの全体が見通せることもあり、東京メトロとは思えぬローカルな風情です。
これ、悪くありません。


#006 『 登場人物の愛車 』

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  小説を読んだり、映画を見たりしていると、登場人物がどんな車に乗っているかが気になります。「乗りもの好き」の性分です。
しかし単に「」と書かれるよりも、車種や色の記述があると、その人物の人となりがイメージしやすくなるのは間違い有りません。車は相当に「記号」としての役割を果たすんですね。

 例えばベストセラー小説の中から「印象的な車」を手繰って見ると…。奥田英朗の『イン・ザ・プール』シリーズの主人公・伊良部一郎医師は「黄緑色のポルシェ」に乗る。脳天気で常識に囚われないぼんぼんドクターにいかにも相応しい。
重松清の『流星ワゴン』では「ワインカラーのオデッセイ」が主人公を時空を超えた旅にいざなう。この車の主は事故死した親子だから、現代のファミリーカーの象徴として順当な選択。
桂望実県庁の星』の主人公である31歳独身上級職公務員は、「白いマークII」を所有。合コンで知り合った23歳の女性に「うわっ、公務員って感じ」とまで言われている。どれもこれも、車種を示す意味が十二分にあることがおわかりでしょう。
しかし何と言っても「」がやたら出てくる小説は、絲山秋子の『スモール・トーク』。
15年ぶりに会う昔の男。今や羽振りのいい音楽プロデューサーは主人公である女性(=昔の女)のもとへ来るたび車が代わっている。
TVRタスカンジャガーXJ8クライスラー・クロスファイアサーブ9-3カブリオレアストンマーチン・ヴァンキッシュアルファGT…。

まあ外国車好きなら一度は乗ってみたい車がずらり、という感じです。スノッブな売れっ子の選択として実にわかりやすい。かつて2人の仲をとりもった、主人公にとってのよき理解者である人のいい男性が、プリウスに乗っている、というのも。

  ことほど左様に、記号としての車は小説での人物描写に大きな影響をもたらすわけです。皆さんの回りの人々の愛車はいかがでしょう。ぴったりくる車、エッと思うような車。意外に「しっくり来る」ほうが多いのではないでしょうか。


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プロフィール

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近野 宏明
(こんの ひろあき)

現在、ワシントン特派員。鉄道、自動車、航空機などの乗りもの・交通全般に詳しい。

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