2009年1月アーカイブ
上野駅の中央改札口の上には、横幅いっぱいにほのぼのとした絵が広がっています。コントラストもそうきつくない、やさしい色合い。牛や馬、木々に裸婦、足を出してくつろぐ男女。どこにも先を急ぐようなせっかちな空気は感じられません。駅を飾る大作ですが、自動車はもちろん鉄道の姿も見えません。「乗りもの」として描かれているのは、牛、馬。この絵のタイトルは「自由」。猪熊弦一郎の作品です。
猪熊源一郎というと、私たちに一番なじみ深い作品は「三越の包装紙」でしょう。あの、白地に赤い不規則な模様が染められたデザインの紙は、「華開く」という名が付いているそうです。しかもその出来上がり原画を受け取りに行ったのは、当時三越の宣伝部に勤務していた漫画家のやなせたかしさん。この包装紙をデザインした翌年の1951年に「自由」は描かれました。
戦争が終わってまだ6年。東京の街は復興途上。上野駅の周辺には戦災で家族を失った人もいたでしょう。「自由」ということばの輝きと価値は、今から想像できないほどの大きさだったはずです。そう思ってみると、描かれているひとりひとり、一匹一匹の様子が、なるほど自由を謳歌しているように見えてきます。上野駅をご利用の際はぜひ、ちょっと時間に余裕をもってこの絵を見上げてみてください。懐かしさと清真な気持ちが、心のなかに「華開く」ことでしょう。
2008年の春ごろにはぐんぐん上がっていたガソリン価格。その後下落の一途でしたが、先週あたりにようやく下げ止まったようです。近所のガソリンスタンドで表示されている数字も少しだけ大きくなりました。
安いに越したことはないのですが、化石燃料はそう遠くないうちに枯渇してしまいます。そこで求められるのが代替燃料。今回はそのひとつ「バイオ燃料」を見てきました。
今週末、日本航空が第2世代のバイオ燃料を使って旅客機のフライト実験を行います。第2世代は食物にならない植物を原料としている点が第1世代との大きな違い。今回の実験ではアブラナ科のカメリナという植物を主原料としているようです。(食物需要とのバッティングが無いとしても、茎や葉が土に還らなくなるため、土壌の力を減衰させてしまうという批判もあります)。他には「藻」なども入っているそうです。「藻」ですよ「藻」!
アジアの航空会社では初の実験です。実際に羽田空港でその燃料を目の当たりにしたのですが、通常のジェット燃料に比べて粘り気はほとんど変わりなく、色もわずかに黄色みを帯びている程度。灯油のようなにおいが少し強いかな、という感じでした。出来上がりは素人目にもOK!ですが、どういう技術でここまで精製するのでしょう。何しろ日本の精製技術は世界一ですからね…あ、そういえばアメリカからの輸入か。
二酸化炭素の排出を減らすという意義のほか、去年のような従来型燃料の価格乱高下に伴うリスクを減らすという経営上の効果もあるのでしょう。フライトは31日。私も取材する予定です。
ところでドラム缶の上にあるのはビールジョッキではありませんからね。念のため。
大寒を過ぎてますます寒さが凍みる東京です。北国では何日かごとに「大雪」のニュース。この週末も冬型の空模様が予想されています。私の実家・新潟市(旧新津市)も1月半ばにちょっと積ったようですが、今頃はどうでしょうか。
この時期、そしてこの地域ならではの装備をご紹介しましょう。「つらら切り」です。写真は鉄道博物館に所蔵…というか、展示されている電気機関車、EF58の89号機。運転台の正面にある窓上に、大きなひさしのような張り出しがありますね。これがつらら切り。EF58の中でも、上越線で使われる車両を中心に、トンネルの出入り口にぶら下がる大きな「つらら」を切りおとすために取り付けられました。走行中の前面ガラスにつららが直接当たってしまっては、ガラスが破損してしまいますからね。
ほかの形式の機関車にもつらら切りが装備された例がありますが、これほど大きなものはEF58ぐらいでしょう。
ひさしの張り出しが大きいのと、全面窓が2枚。なんだか往年のハリウッド女優の大きなつけまつげのようにも見えますが。いかがでしょう。
ディーゼルカー(気動車)です。特急「はまかぜ」。大阪駅でのショットです。このディーゼルカー、デビューは1968年。もう40年以上も前の設計なのです。それまでの特急用気動車ではパワー不足、という路線に投入するべく開発された、大出力のエンジンを搭載。出発時のエンジンのうなりは周囲の音声を圧倒します。アップの写真見てください。ガァアアアア…っという音と同時に、うっすらと白煙が上がります。で、出発していったのですが。
今回の主題はこれからです。この白煙が、なんとも言えない独特の匂いを残していくのですよ。乗りものの匂い、「内部の香り」ではなく「残り香」もじつは結構なものでして。わたしは子供の頃、タクシーの排ガスの匂いが好きでした。あれはたぶん通常のガソリン車ではなく、LPガスを燃料とするタイプだったのか…表現し難い特殊な匂いでありました。かの本田宗一郎も幼少の頃、村を駆け抜ける自動車を追いかけてどこまでも走っていったとか。斯様に排ガスの匂いには不思議な魅力があったのですが。間違いなく健康には良くなかったのでしょうね。昨今は排ガスもずいぶんクリーンになり、車種によっては排ガスのほうが周囲の空気よりもキレイ!というエンジンもあるようです。もはや本田宗一郎や私のような子供は見受けられなくなったのでは…。いいことですね。
小さな路面電車と終着駅。乗りもノート特派員のMさんが撮影した写真です。大阪・ミナミと堺を結ぶ、阪堺電車。ここは2つある路線のうち、阪堺線の終点、恵美須町です。少々歩くとそこにはナニワのシンボル、通天閣がそびえたつロケーション。庶民的で美味しい飲食店や商店がひしめき合う「ジャンジャン横丁」もすぐ。そして停留所から大通りを渡るとまもなく、商売繁盛の神様として知られる、今宮戎神社が。この神社ではついこないだ、1月10日は「十日戎」ということで、景気回復、商売繁盛を願う何万人もの参拝客で賑わったようです。活気あふれる大阪の空気を吸い込むにはうってつけの街ですね。
こういう小さな電車からどっと乗客が降りてくる光景、いいですよね。地元の皆さんにとってはまさに「ゲタ代わり」の乗りもの。「乗客全員が観光客」であろう、ちょっとした山頂へ上るケーブルカーやロープウェーとは違います。低いホームの端に見える詰め所や道具類も、よく手入れされた普段着の匂いがします。長い時間にわたって刻まれてきた「日常」があるからこそ、遠方からの旅行者はより強い旅情を覚えるのでありましょう。そんな旅情を喚起する、秀逸な構図の一枚です。
ハイブリッドカーです。ホンダの「インサイト・コンセプト」 。
年末に取材した環境展示会で陳列されていました。街でみかけるハイブリッドカーはトヨタの「プリウス」が圧倒的多数ですが、この1台は追撃できるかもしれません。
というのもこのフォルムがこれまでのホンダのハイブリッドカーとは違うから。これまでホンダはシビックのハイブリッドバージョンを世に問うていましたが、残念ながらそのスタイルは良くいえば中庸、遠慮をせずに言わせていただくならば「凡庸」だったのです。しかるにこの新型車は、そのポテンシャルと外観が一致しています。新しさ、がずいぶんと体現されました。結局のところちょっとプリウスに似てるきらいはありますけど。でもフロントマスクは以前に「乗りもノート」でもご紹介した燃料電池車と共通する印象。去年後半に発売された「オデッセイ」もこんな感じですから、きっと今後のホンダ車のアイデンティティとなるのでしょう。
ところでこの車、日本国内でのお披露目はこのときが初めてだったようです。自動車業界も世情もかつてない逆風。渾身の新車も売れなくては意味がありません。傍らにいたホンダの方に「値段はお幾らぐらいになりそう?」か聞くと「お楽しみにしてください」といなされました。2009年、お楽しみの一つとさせていただきましょう。
成田空港の写真です。高架の上をゆく黄色のシャトルはちょっと離れた小島のようなターミナルに向かう乗りもの。無人で運行する「大きな箱」みたいなものです。何度も乗ったことがありますが、どうも移動距離が微妙に短い気がいたします。この距離ならば「動く歩道」でもよかったんじゃないかと。しかも待ちの時間が意外に長いような。…ま、こういう施設を作るときには利用人員や運行間隔などを綿密に計算し、その結果をもとに作るのでしょうから、きっとここではこのスタイルがベスト、なんでしょう。
ところで気になるのは高架下の車です。黄色い回転灯を屋根上に乗せたワゴン車。よく見るとスウェーデン生まれの「サーブ9-5」です。なかなかツウな車。周囲を見渡してもいかにもビジネスライクな日本の商用車ばかり。それらはワゴンというよりも「バン」の色合いが濃くなります。同じ釣りに行くとしても、サーブの積み荷がフライフィッシングの道具を詰めた渋い木工の箱ならば、バンの積み荷はディスカウントストアのワゴンセールで買った特売品のクーラーボックス、といったイメージでしょうか。
だいいち値段がずいぶんと異なりますからね。サーブのこのワゴンならば、日本車の普通の商用バンならば2台はラクに買えちゃいます。なぜここで奮発しているのでしょう。それがまた不思議。「空港」というロケーションから、貿易摩擦解消(に貢献して見える)のためにあえてスウェーデン車を買ったのか?小西キャスターならば「もしや無駄遣い??」とばかりに取材に飛び出すところでしょう。それにしても…ナゾだ。
あけましておめでとうございます。200回を超えた「乗りもノート」、足かけ4年目です。今年もご愛顧くださいますようお願い申し上げます。
新年初回のテーマは鉄道です。鉄道好きはじつにさまざまな分野に細分化されます。何度も繰り返しますが「裾野は広く、頂きは高い」んです。かく言う私もさまざまな局面で「おッ!」と胸ときめく瞬間というものがございます。で、先日「おッ」ときて写真を収めたのがこちら。トップナンバーです。鉄道にご興味のない方、意味わかりますかね。あらゆる鉄道車両には一両ごとに記号番号が割り当てられます。同じ形式の車両でも最初に作られた「1番」がついているのを見ると、ちょっと「おッ」とくるのですよ。これが。
今回の電車は211系。東海道線をゆく普通列車に使われる形式です。「クハ210-1」なんて記されていますね。この編成は先頭車両も中間車も、モーターのついたのも無いのも、それぞれの「1番」がそろっています。つまりは「いの一番」、全体として最初に作られた編成なんですね。
鉄道車両というのは、実際に作って使ってみて、その後の生産に改良を加えることがあります。結果としてトップナンバーというのはその後の量産車両とはかなりの差異がある場合も。まあ何と言うか、「いちばん最初」というのは気合いの入りかたが違う、感じがいたします。…理解してもらえるかなぁ?
人間もいちばん最初、お正月の決意はちょっと気合いが違いますでしょ?