#303「国道」
JR鶴見線の国道駅はカーブした高架上にあるので、ホームはこんな感じ。まあこじんまりとした普通のホームです。しかしこの駅の真骨頂は、高架下、改札に向かうところから始まります。ホームからの階段を下りていくと、なにやら芳しい香りが。「焼鳥」です。その香りと、薄暗い階段がすでに「異界」のような雰囲気を醸し出します。改札は無人。「Suica」をタッチする可愛らしいスタンドがあり、そこを抜けると、ホームの真下は昭和初期そのもの。タイムスリップしたような錯覚にとらわれるのです。
その様子がこちら。カメラが勝手に明るさを補正するのでかなり明るく見えますが、実際に自分の目で見るほうが、遙かに薄暗く感じました。50メートルほどの通路の両脇には、ひとけのない住まい(と思われる)が何軒か続きます。一軒だけ灯りをともしていたのが、ホームを降りはじめると漂う香りの元、焼鳥屋さんでした。この通路、映画のロケなどにも使われたそうで、なるほどこの雰囲気はセットを作る以上に雄弁な映像になるでしょう。
ホーム下の通路を抜けると、「魚河岸通り」と名付けられた道に出ます。つまり、カタカナの「キ」の字のように、東西に並行する街道を、線路が縦にまたいでいる格好です。南側の道は現在の15号線に並行して走る、旧東海道と思われます。釣り船の店、天婦羅の店などが並ぶところを見ると、「ああ、いにしえの東海道の風情…」と思わずにはいられません。電柱に記された住所は「生麦」。そうかこのあたりで「生麦事件」は起きたのだなと、日本史学専攻の私は思うのでありました。
次の電車を待つまで、まさに「歴史」をひも解くような20分間。国道駅はじつに奥が深い。