#266「本質」
世の中の多くの乗りものは、A点とB点を早く快適に移動することをその目的としています。電車も、飛行機も、車もそうですよね。しかるに、遊園地の乗りものというのはそうでない場合がほとんどです。
写真の観覧車もその一つ。乗車点と下車点がまったく同一という点がその特徴の一つです。考えてみると、観覧車が丸ごと窓のない建物に覆われていたらどうでしょう?上までいって、同じ場所に降りてくることに何の意味があるでしょうか。見晴らしのよい場所にあればこそ、同一点への移動でも観覧車の意義はあるのです。物理的移動よりも、視覚的な喜びが観覧車の本質、と言えましょう。「観覧>車」の関係です。圧倒的に。
ということは、観覧車という「車」に純粋に「乗る」行為だけを楽しむならば、ゴンドラに乗ったらすぐ眼を閉じる。そしてガチャリとまたドアが開けられるまで、じっと眼を閉じたまま観覧車の「動き」を感じ取るべく、自らの感覚を研ぎ澄ましてみるほかないわけです。小さく豆粒のように動く地上の人々や、はるかに見渡す街や自然のようすを観覧するという誘惑に打ち克つことが、「乗りもの」としての観覧車に「乗る」行為を極めることになるのでは…。ううむ。私がそういう境地に至るにはまだまだ長い道のりが待っています。