#203「ヘッドマーク」
かつて、特急や急行の先頭部分には「ヘッドマーク」なるものがとりつけられていました。機関車が引っ張るタイプの列車の場合には機関車の前面と、列車の最後尾に丸くて重いものが。そして電車特急になってからも、平たく上下につぶしたような横長の五角形のものが。終着・始発駅ではその大きなプレートを取り外して、次の列車のものに取り換える作業もあったんですよね。
しかるに。21世紀の文明はこの古式ゆかしい儀式をどんどん廃してしまっています。電光式のLEDがその推進役。きょうの写真見てください。 特急の先頭部分。電光でもって文字を掲出しています。スイッチひとつで別の列車の愛称に切り替わり、「回送」だの「団体」だのといった文字も何の苦もなく出てくることでしょう。(実はよく見ると、手前の高崎線の電車も同様にLED表示されています)。
いやいやちょっと待て、という異論も承知しております。LEDに代わる前段階もあったではないかという異論ですよね。確かに、一枚一枚現物があって、手作業で取り付けたプレートタイプの次には、プラスチックのロールシートに何枚ものマークをプリントしておき、グルグルと回してその列車のものを掲出するタイプが出現しました。多くの列車は現在もこのタイプです。だいぶ効率化されましたが、それでも一応、手に触れることのできる「マークの現物」があったのです。
かつてのヘッドマークというのは、ほんとうにスペシャルなものでありました。ゆえに、鉄道趣味の店では高く売買されたり、好きが高じて車両基地から盗んでしまう不届き者まで現れるぐらいです。LEDのタイプは車両と一体になっていますから、盗まれる心配もありません。しかし、すべてはLEDによる光のドットゆえ、「現物」は無い。乗り物好きにはそこに何の情緒もロマンも感じないのです。この気持ち、わかりますかねえ…?