#102 「鉄道博物館 冷水器」
かつて、冷たい水は何か「ありがたいもの」でした。大きなヤカンに氷を入れた水。町内の行事などで出てくる樽型の大きな冷水ポット。冷蔵庫で冷やした水。ま、いろいろありますが、いずれも「あとから冷やして保管する」という性質のため、「飲みきると後がない」という悲しい宿命を背負っていました。「最初から冷えている」「尽きることなく飲める」そんな冷たい水は、とてもありがたいものだったのです。
振り返ると私の通った中学校には、冷水器が何台かありました。足でペダルを踏むと、チョローっと冷たいお水が放物線を描く、床に据え置くタイプと、コップを押し当てると上からジャーッと出てくるタイプ。後者は飲食店でもよく見受けられます。体育の時間のあとの休み時間、部活の終わった放課後など、行列ができたものです。
コンビニもない、ファストフードもない時代に、そういうありがたい冷たい水を好きなだけ飲める場所のひとつが「特急電車の中」でした。
写真は鉄道博物館に展示されている特急車両「クハ481」の冷水器です。特急や新幹線に備え付けられていたこの冷水器は、何といっても「コップ」に特徴があります。平たくつぶされた耐水紙をぐいっと広げてチョボチョボと水を注ぐ…。衛生上の問題、保守点検の手間、コンビニの普及などでしょうか。めっきり見受けられなくなりましたね。
でも展示車両の洗面所周辺は、独特の饐えたニオイが往時のまま。懐かしい…。もちろん冷水器は使えませんが。念のため。