#068 「代償」
ゴーカート。
運転免許を持たない年代の男の子の多くは、好きな乗りものでしょう。自分の手足でスピードと方向を操り、風をきって走る。もちろん大したスピードではありません。でもその愉しさは確実に心をとらえます。
つまりこの時点でのゴーカートの運転は、心理学でいうところの「代償行動」みたいなものですね。はるか高みにあるハードル(自動車の免許を取得して公道を乗り回す)が叶わない。ゆえにレベルを下げてその欲求を満たす、と。たしかに子どもの頃、デパート屋上のバッテリーカーや遊園地のエンジン式ゴーカートに乗っていると、おとなになったような、誇らし気な心持ちになりました。
それから幾年月。運転免許取得から15年以上も経ち、よく車も運転しています。なのに、こうしてゴーカートを見ると無性に乗りたくなるのは一体どういうことなのか。心理学的にはむしろ退歩しているということ?「童心にかえって衆目を気にせずゴーカートで風を切ること」のほうが、いまや「はるか高みにあるハードル」になってしまった、ということでしょうか。だとすれば。取りも直さず、それは「加齢」の証し…。