#033 「バー」
「BAR」です。おとなの空間です。私の日常生活にはあまり登場しない場です(お酒がそれほど飲めないので)。そんな私が、勇んでバーにでかけました。福澤朗さんとの「絶対行きましょう!」という2年越しの約束を実現するために。仕事のあと向かったのは銀座8丁目のバー「パノラマ」です。ここは「ある方面の趣味」をもつ人々には有名なお店。福澤さんと男ふたり。忍び会うふたり。…「ある方面」を誤解しないでください。「鉄道好き」の聖地のようなお店なのです。
エレベーターを降りるとそこには小さな小さな鉄道模型レイアウト(ジオラマ)が。私の指のサイズと比べてみてください。爪の先と同じようなサイズの車両が、2両連結でぐるぐる回っています。わくわくしますねえ。
そしてL字形のカウンターの上には作り込まれたジオラマが拡がります。賑やかな高架駅、商店街、ちょっと鄙びた情景…。お酒や料理を楽しんでいると、目の前をいくつもの列車が駆け抜けます。福澤さんと私が陣取った席は、目の前に踏切があるのですが、これが列車の接近と合わせて「♪カンカン…」と遮断機が下がるのです。すばらしい。
カウンターの前にある美しい色のカクテル。気になります?戦前、南満州鉄道の特急「あじあ号」で供されたカクテルそのものだそうです。2種類のレシピがあって、我々2人は両方堪能しました。ノスタルジックな味わい。ちなみにグラスを置く皿は、「あじあ号」で使用した本物のお皿だとか。言われて見れば古風で厚手ながら味わいのある白い皿です。
このお店の美点は(って断定しちゃいますが)、バーとしてきちんと雰囲気をもっていること。店のたたずまい、お酒も料理も値段も文句なしです。そのうえで、鉄道好き・模型好きのハートを揺さぶること。カウンターの後ろにはいい感じに照らされたガラスケースがあって、完成品の車両も販売しています。福澤さんの事前取材によれば、「こういう店を銀座の地に作りたかった」というコンセプトを、オーナーは強く抱いていたそうです。いわゆるマニアタウンではなく、王道の銀座に構えることに意義がある、ということでしょう。なるほど、その志は現実になっています。乗りもの好きの皆さん、少人数の会合の際は銀座を目指しましょう。…ふらっと行って座れない程に混雑しちゃうと困りますが。