鉄道アーティスト★小倉沙耶レポート★
ひたちなか海浜鉄道 さよならキハ223
2009年7月26日。ひたちなか海浜鉄道の最古参気動車の一つである、キハ22形223 号のさよなら運行が行われました。
キハ22形は、北海道の羽幌炭礦鉄道の廃線に伴いやってきた列車。運転席の窓に "旋回窓"という装置がついていることが特徴です。
旋回窓とは、窓の一部に金属の輪がはめ込まれ、その中のガラスが回転して雪を散らす仕組み。豪雪によりワイパーが役に立たなくなることも多い地区で、視界確保のために取り付けられています。
そんな、寒いところの代名詞的存在である旋回窓付きの車両が茨城で見られるとあって、キハ22形は鉄道ファンにも人気の存在。
キハ223引退後も、同じ形式のキハ222は残りますが、ひたちなか海浜鉄道の前身である茨城交通時代から続くオリジナルカラー車が役目を終えるとのことで、さよなら運行の座席指定券は、発売当日に即完売となりました。
「ああ、よかった。変わってないなぁ・・・」車両基地のある那珂湊駅に降り立つと、その雰囲気に安心感を覚えました。
2008年4月から、第三セクター鉄道として生まれ変わったひたちなか海浜鉄道ですが、私がここを訪れるのは茨城交通時代以来。
もちろん、ところどころ変わったところはありますが、のどかで優しい空気は当時のままです。暫くして、勝田方面からの列車が到着。カメラを持った方々が次々と降りられ、構内は徐々に活気を帯びてきました。さあ、間もなく入線時間。
気合を入れてカメラを構えると、立派なヘッドマークを付けたキハ223が遠くからやってきました!
青い海と空、そして雲とカモメをあしらったヘッドマークは、この路線のイメージと今の季節にピッタリです。
勝田側には、旧国鉄標準色に塗られたキハ205が連結されています。
定期のダイヤに組み込まれる形で2往復する、今回のさよなら運行。
自由席のキハ 205と連結し、2両編成で走ります。となると、さよなら運行の回送でもあり、定期の列車として走る那珂湊駅~阿字ヶ浦駅間はキハ223を締め切るのかしら・・・と思っていたら、客扱いをして阿字ヶ浦駅まで行くとのこと。
さよなら運行の指定席券を持っていない私としては、願ってもない話!
喜んで、キハ223に乗り込みました。発車すると、座っている皆さんがおもむろに窓を開け始めました。
そう、この車両は非冷房車。
真夏日のこの日、車内は熱気も相まって暑い暑い!
「でもさあ、この暑さがいいんだよなぁ」近くにいらした方が、そう言って満足そうにタオルで汗を拭いていました。
確かに、非冷房だからこそ窓を全開にして、外からの風を思い切り受けることができるんですよね。
私は今まで、キハ22形に数回しか乗車したことがありません。
気動車好きの私にとって、勿論この形式は外すことができない素晴らしい車両ですが、タイミングが合わずに新型車両に乗車することが多かったんです。
そこで、乗車されている方にキハ22形の思い出を伺ってみることにしました。
すると、皆さん口をそろえて「初めて乗りに来た時にこの形式がきて、感動したんです」と仰います。
「だって、旋回窓はついてるし、床は木なんですから」確かに、インパクトとしては十分。
印象に強く残っているからこそ、さよなら運行にはどうしても来たかった・・・という方がとても多かったです。
終点の阿字ヶ浦駅に到着。
ここからはキハ223が指定席となるので、隣のキハ205に移動します。
ああ、涼しい~!こちらは冷房装置がついています。
滝のようにかいた汗がスーッと引いて気持ちいい!
でも、いくら団扇をあおいでも暑そうなキハ223側の方たちが、やっぱり羨ましかったりします。
沿線には、別れを惜しむ鉄道ファンの姿があちこちに見えました。
特に撮影スポットである中根駅付近では、100人以上の方がファインダーを向けており、改めてこの車両の人気を目の当たりにしました。
列車は徐々に街の中に入り、勝田駅へ。
ホームは、さよなら列車の到着を待つ人でいっぱい!下車して撮影していると、JRのホーム側から、娘さんを連れたお母さんに声をかけられました。
「あの、この列車は今日で最後なんですか?」
「そうなんです。鉄道ファンに人気の車両なんですよ。床は木ですし、冷房もついていないんです」
すると、お母さんは目を丸くして
「え、床が木でできてるんですか?!」
と驚いた風に仰いました。
確かに、今はなかなか見られませんし、驚くのも無理はないかもしれませんね。
その後、お母さんは携帯電話を取り出し、娘さんと一緒に楽しく撮影をされていました。
去り行くさよなら運行列車を見届けた後、後続の普通列車で中根駅へ。
キハ223がエンジンを震わせて力走する姿を撮影し、お別れとなりました。
真夏のさよなら列車。
お別れイベントは寂しいムードになりがちですが、照りつける太陽とあたたかな職員さんのおかげで、終始笑顔に満ちた時間を過ごすことができました。
でも、やっぱり末永く動いてほしいと思うのが鉄道ファンの心理。
キハ223の引退は残念ですが、残されたキハ222には、沢山の笑顔を載せて、これからも頑張ってもらいたいと思います。
ありがとう、お疲れ様でした。キハ223。
鉄道アーティスト 小倉沙耶レポート
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